東京地方裁判所 昭和43年(ワ)13699号 判決 1969年9月03日
被告 三井銀行
理由
一、《証拠》によると、原告は訴外株式会社水口商店に対し、同会社振出にかかる額面金一〇〇万円、支払期日昭和四三年五月七日、支払地東京都中央区、支払場所株式会社三井銀行浅草橋支店、振出地東京都台東区の記載ある約束手形金債権を有し、京都地方裁判所昭和四三年(手ワ)第一九七号の執行力ある判決正本に基づき水口商店が右手形の不渡処分を免れるため、社団法人東京銀行協会に提供する目的で、被告銀行浅草橋支店に預託した金一〇〇万円の返還請求権を差押え、転付命令を得たことが認められるところ、これに先だち原告が同預託金返還請求権につき右裁判所の仮差押決定を受け、同決定正本が昭和四三年五月二三日第三債務者たる被告の浅草橋支店へ送達されたこと、ついで、前記確定判決による差押転付命令が原告主張の日時に被告銀行浅草橋支店へ送達されたことは当事者間に争いがない。
二、ところが、被告は反対債権による相殺の主張をするので検討する。《証拠》によると、被告銀行浅草橋支店は水口商店との間に乙第一号証の銀行取引約定書に基づき昭和三九年二月頃から取引を継続し、かつ同約定書第五条第一項第四号によれば、借主において手形交換所の取引停止処分があつたときは被告に対するいつさいの債務につき当然期限の利益を喪失し、直ちに債務を弁済する旨定められていること、被告は昭和四三年五月一三日同約定に従い、水口商店に対し手形貸付により金二〇〇万円を融資し、同商店から額面金二〇〇万円、支払期日同年六月一三日なる約束手形一通の振出し交付を受けたけれども、同期日に支払ができないため、同日、同一額面金額、支払期日同年八月一三日とする約束手形に書替え、その間支払を延期したこと、しかるに、水口商店は同年六月二〇日手形不渡処分を受け、銀行取引を停止されたこと、これに伴い、被告銀行は翌二一日東京銀行協会より前記提供金一〇〇万円の返還を受けたことが各認められ、他に同認定に反する証拠はない。
三、前記認定事実によると、被告の水口商店に対する反対債権は両者の右銀行取引約定に従い、同商店が手形不渡処分を受けた昭和四三年六月二〇日の時点で弁済期が到来したことになり、他方本件預託金返還請求権は水口商店が不渡処分により銀行取引停止の措置を受けたことに伴い、もはやこれを提供しておくことが無用に帰したため、被告においてその返戻を受けた同月二一日に履行期が到来したものと解すべきである。
そして、被告が水口商店に対し現に有する反対債権は、昭和四三年五月一三日に金二〇〇万円を手形貸付の方法により融資したものを、その弁済期である同年六月一三日に支払えないので、更に二ケ月延期して八月一三日とする手形に書替えたものであるから、その債権発生の時期は当初貸付けた同年五月一三日と見るべきこと当然であつて、原告がなした本件仮差押決定正本が被告に送達された同月二三日より先立つこと明らかである。
このようにみてくると、民法第五一一条の規定に拘わらず被告は水口商店に対する右反対債権をもつて、本件預託金返還請求権とその対等額をもつて、相殺をなしうべく、かつその相殺適状の時期は後者につき履行期の到来した昭和四三年六月二一日であると解されるところ、被告が本件預託金返還請求権を差押え、転付を受けた原告に対し本件第二回口頭弁論期日において右相殺の意思表示をしたことは本件記録により認められ、この点に関する原告の主張はいずれも採用し難い。
四 以上の次第で、本件預託金返還請求権は右相殺によつて消滅したこと明らかであるから、被告に対しこれが支払を求める原告の本訴請求は理由がないので棄却